失敗しない資金計画の立て方
不動産購入にあたっては資金計画を考えなければなりません。資金計画により、購入可能物件の絞り込みが可能になりますので、まずは資金計画をきちんと考えることがとても大切です。
さて、資金計画を考える際、どうしても金融機関から「いくらまで借りられるか」という点に重点が置かれてしまいがちですが、 資金計画で失敗しないためには、月々の返済額から考えていくことが重要です。
例えば、今賃貸物件で生活をしているという人は、現状の家賃の支払い額をベースに月々の返済可能額を考えなければいけませんし、これから結婚や出産を控えている人は、生活環境や資金状況が変わることを踏まえた上で、いくらぐらいなら返済可能なのかということを考えていかなければなりません。
また、マンションを購入する際には、ローンの返済額に加えて、管理費や修繕積立金が別途必要になってきます。 これは賃貸物件の際にはかからなかった費用ですので、資金計画を考える上では必ず考慮に入れておきましょう。 その他、賃貸と違って、不動産を購入した場合には、固定資産税や設備の改修費などもかかりますので、ある程度の余裕をもった資金計画を組む必要があります。
返済可能額は自分にしかわからない
返済可能額は家計とのバランスで算出します。
一般的には「現在の家賃」+「年間の貯蓄額」が返済可能額の目安とされますが、今現在の生活だけではなく、将来的な家庭内の事情も考慮に入れて、ある程度の見通しを立てておきましょう。
たとえば、お子さんのいる家庭であれば、進学先が公立なのか私立なのかによっても状況は変わってきます。
また高齢の親がいる家庭であれば、介護状態に入っても、無理なく返済が可能なのかということも考えて置かなければなりませんし、自分自身の老後の資金についても計算に入れておく必要があります。
物件購入価格の1割程度を準備
不動産を購入する際は、物件の購入価格とは別に必要な費用として、主に以下のものがあり、これらの諸経費として、おおよそ物件価格の1割程度が必要になります。
様々な手数料から税金までしっかり頭に入れて準備していないと、資金計画の見直しを迫られることになりかねません。
ここでは、不動産購入した際に必要になる費用と、ローンを組んだ場合に必要になる費用をまとめましたので、参考にしてください。
① 印紙税
売買契約書にかかる税金です。税額は契約書の記載金額によって決まります。
② 登録免許税
所有権移転登記の際にかかる税金です。
③ 登記手数料
所有権移転登記を司法書士に依頼する際にかかる手数料です。
④ 不動産取得税
不動産取得税は、不動産を売買などにより取得した際に、取得後1回のみかかる税金です。 不動産取得税の課税金額は取得した不動産の価格によります。
この不動産の価格というのは、購入価格ではなく、原則として、固定資産課税台帳に登録されている価格(固定資産税評価額)となります。
固定資産税評価額は時価の70%ほどです。 各種軽減措置がありますが、軽減を受けるためには、申告が必要になります。
⑤ 仲介手数料
不動産売買を仲介会社が行う場合は、仲介手数料がかかります。 仲介手数料は物件価格の3%+6万円(+消費税)となります。
⑥ その他住宅ローンを組む場合
その他、住宅ローンを組んだ際には、①事務手数料 ②金銭消費貸借契約書の印紙税 ③抵当権設定のための登録免許税 ④抵当権設定登記の登記手数料 ⑤ローン保証料 ⑥団体信用生命保険料 ⑦火災保険料がかかります。
住宅ローンの借り入れの際に条件とされることが多いのが団体信用生命保険への加入です。
団体信用生命保険とは、住宅ローン契約者が死亡・高度障害状態になったときに、残りのローンを肩代わりしてくれる住宅ローン専用の生命保険です。略して「団信」と言われたりしています。
また、住宅ローンを借りる際は、必ず火災保険に加入しなければなりません。
不動産購入の流れ
さて、ここからは物件購入の流れを説明していきたいと思います。
※「書類!」とある場面では、手続きを進める上で、各種書類を準備する必要があります。
① 不動産購入申込書(買付証明書)
物件をある程度絞り、内覧し、その物件が気に入った場合は、まずは不動産購入申込書(買付証明書)を売り主へ提出します。
不動産購入申込書には、購入希望価格、支払い方法と支払い時期(手付け金・中間金・残代金)、住宅ローンの額、引き渡し状態、契約希望日、引渡し希望日、既存住宅状況調査(インスペクション)実施希望、有効期限などの条件を記載します。
この不動産購入申込書には、法的な拘束力はありませんが、売り主に対する意思表示であり、売り主側の判断材料になるものですので誠実に作成するようにしましょう。 売主が不快な思いをすると、その後の交渉に影響を与えることもありますので、注意が必要です。
なお、申込者が多数いるという場合は、一般的には不動産購入申込書の先着順となりますが、最終的な決定権は売主にありますので、売主に確認が必要となってきます。
不動産購入申込書を提出してから売買契約までは、通常1週間程度と慌ただしく進みます。
② 価格や条件の交渉
価格や条件がまとまっていないと、売買契約には進めないため、価格や条件交渉をする必要があります。
③ 融資の事前審査(ローンを使う場合のみ)
住宅ローンの事前審査が下りていないと、売買契約ができないことがありますので、事前審査を受けます。
住宅ローンの事前審査の際に記入する「事前融資審査申込書」ですが、この書面は、直筆で正確に丁寧に書くことが大切です。
空欄があったり、判読不明な箇所があると、その度に確認を求められ、審査が止まってしまいます。
金融機関が「事前融資審査申込書」から知りたい情報としては、「自社の融資条件に合致しているか」「返済可能か」「過去に借入や延滞の事故情報はあるか」という点になります。
事前審査の際に必要書類としては以下のものがあります。
<買主が準備するもの>
・住宅ローン事前審査申込書(原本)
・個人情報利用の同意書(原本)
・身分証明書(写し)
・収入に関する書類(写し)
※給与所得者の場合は、源泉徴収票2〜3期分
※個人事業主および確定申告の場合は、確定申告書2〜3期分付表付き
※法人経営者の場合は、法人の決算書2〜3期分科目明細、会社の登記事項証明書も必要な場合あり
・返済予定表(償還票)(写し)
※オートローンなど他に借入がある場合に、残高と月の支払額がわかる書類の提出が必要となります。
<不動産業者が準備するもの>
・物件パンフレットやチラシなど
・土地建物の登記事項証明書・登記情報(写し)
・土地の公図・地積測量図・建物図面(写し)
・住宅地図(写し)
・確定測量図(実測図)(写し)
・見積書及び計画図(建物配置図)(写し)
※新築やリフォームをする場合は、その見積書と間取図などの計画図を提出します。
・売買契約書・請負契約書等のひな形(写し)
④ 専門的な諸検査の実施
諸検査により売買契約の条件が変わることもあるので、必要に応じて検査を実施します。
検査は、「インスペクション(住宅診断)」「耐震基準適合証明の検査」「既存住宅売買瑕疵保険の検査」「フラット35適合証明」の4種類があります。
これらは主に、中古の戸建て、中古マンションを購入する際に行う検査で、費用がかかります。
⑤ 新築やリフォーム等の計画確認
新築やリフォームをする場合には、おおまかな見積りと簡易なプランをもらうようにしましょう。
⑥ 媒介契約の締結
不動産業者と媒介契約を締結します。
⑦ 売買契約書・重要事項説明書の確認
売買契約前に、不動産業者が準備した売買契約書と重要事項説明書には必ず目を通しておくようにしましょう。
⑧ 物件周辺状況等報告書・付帯設備表の確認
物件周辺状況等報告書と付帯設備表も、事前に確認しましょう。
⑨ 売買契約時の必要書類や、手数料の準備
売買契約時には、実印・認印(現金購入の場合は認印で可)、身分証明書、手付金、収入印紙が必要になります。
⑩ 売買契約の締結
売主、買主双方において、売買価格、引渡状態、引渡時期などの取引条件に関する意向がまとまったら、いよいよ売買契約の締結(手付金の授受)という流れになります。
売買契約時には、まずは、不動産会社の宅地建物取引士(宅建士)から買主に対して、重要事項の説明があります。
宅地建物取引業法によって、不動産会社の宅地建物取引士(宅建士)が不動産の取引内容について買主に対して確認し、説明するための書面を重要事項説明書といいますが、この重要事項説明書は、買主にとって、とても重要な書面となりますので、記載内容に不明な点がある場合には、事前にきちんと確認するようにしましょう。
重要事項説明書の主な内容としては以下のものがあります。
1. 宅地建物取引業者、宅地建物取引士、取引の態様、供託所
2. 不動産の表示(登記内容など)、売主に関する内容、占有者の有無
3. 法令上の制限(都市計画法、建築基準法、その他の法令)
4. 敷地と道路との関係(道路種別、幅員、接面長、道路後退の有無など)
5. インフラ整備の内容(電気、ガス、上下水、下水道)
6. 石綿使用調査、耐震診断の有無、既存住宅状況調査実施の概要
7. 共用部分、管理費、修繕積立金、管理の委託先
8. 代金以外に授受される金銭(手付金、日割清算金など)
9. 契約の解除に関する内容(手付解除、違約解除など)
10.特約事項、特記事項
重要事項の説明が終わると、次は売主、買主双方が当事者となる売買契約の締結となります。
売買契約書は、売主と買主双方の約束事がまとめてあり、契約の目的となる不動産の表示、売買価格、支払方法、決済時期、解除条件、瑕疵担保責任、特記条項などが記載されています。
特に、その不動産独自の取り決めについての記載がされている特記事項は、当事者の思い込みや理解不足などで、後々トラブルになってしまうケースも少なくありません。
特記条項でよく問題となるのは以下の内容です。
・ 物件の引渡し状態について(現状有姿、内装渡し、更地渡しなど)
・ 内装渡し、更地渡しに関して、売主が引渡しまでに行う具体的な内容や範囲
・ 売主が瑕疵担保責任を追うべき範囲と期間、あるいは免責となる範囲
・ 買い換え特約に関する買主所有物件の内容、売却期日、価格など
・ 任意売却で担保抹消に関する債権者の同意および協力を停止条件とする内容
・ 遺産分割協議書に基づく場合、相続登記未了の場合の売主の責任
・ 借地権付建物の場合、地主の借地権譲渡の承諾に対する売主の責任
・ 借家人付建物の場合、賃貸借契約の継承と保証金・敷金の取り扱い
また、売主・買主ともに売買契約書の内容で軽視しがちなのが、契約解除についての条項です。
売買契約の締結の時点では、その契約を解除することなど頭の中にはないのが通常だと思いますが、万が一解除することになった際には、こちらの条項が非常に重要になります。
いざというときに慌てないために、解約条件や解約期日など、きちんと確認しておきましょう。
⑪ 住宅ローンの本審査
売買契約締結後、買主は住宅ローンの本審査を受けます。
本審査は事前審査で自己申告した内容に、虚偽や大きな間違いがないか、また健康に問題がないか等などが確認されます。特に問題がなければ、おおよそ10〜15営業日ほどで、審査承諾の結論がかえってくるのが一般的です。
住宅ローン特約は通常1ヶ月前後とされていることが多いため、本審査で10日ほどかかることを考えると、残りの2週間で書類を集める必要があり、時間的にはかなりタイトとなりますので、事前に必要書類について確認をし、集められるものは集めておくようにしましょう。
<住宅ローンの本審査で必要な書類>
・ 住宅ローン本審査申込書(原本)
・ 個人情報利用の同意書(原本)
・ 団体信用生命保険申込書兼告知書(原本)
・ 身分証明書と健康保険証(写し)
・ 収入に関する書類(写し)
・ 印鑑証明書(発行後3ヶ月以内の原本)
・ 住民票(発行後3ヶ月以内、世帯全員分記載の原本)
・ 公的年収証明書(課税証明書1〜3期分の原本)
・ 納税証明書
・ 返済予定表(借入がある場合のみ、償還票の写し)
・ 自己資金確認書類(売買金額と融資額に差がある場合、通帳や有価証券の写し)
・ 重要事項説明書・売買契約書(原本)
・ 建築請負契約書・間取図/見積書(新築・リフォーム工事をする場合)
・ 土地建物の登記事項証明書・登記情報(原本)
・ 公図・地積測量図・建物図面(原本)
・ 建築確認通知書(概要書)・検査済証(中古の場合) など
その他、事前審査の必要書類で未提出のものも提出しなければなりませんが、事前審査で提出した書類は本審査の際は求められないケースがほとんどです。
⑫ 金銭消費貸借契約の締結
金銭消費貸借契約とは、金融機関からお金を借りる際の契約のことです。 借入当事者が金融期間が空いている平日の時間に指定の店舗へ赴き、契約を締結します。
契約書の説明を受けて、署名押印という流れで、所用時間は2時間程度です。 契約にあたり必要なものは以下となります。
<金銭消費貸借契約の締結にあたり必要なもの>
・実印・認印
※実印登録をしていない場合は、早急に行いましょう。
・通帳届出印・預入金
※通帳がない場合には、通帳を作るので届出印と預入金が必要になります。
・身分証明書
・住民票・印鑑証明書
※住宅ローンの本審査の際に提出して不足がある場合に必要になります。
※金融機関から新住所でのものが求められる場合もあります。
⑬ 残金の決済
残金の決済は、売買代金の授受や登記手続き等を行う重要な手続きになります。
残金の決済は、登記や融資の手続きがありますので、法務局や金融機関が開いている平日に、買主が融資を利用する融資元か、買主が自己資金を預けている金融機関で、売主、買主、不動産業者、司法書士の立会いのもと、行われるのが一般的です。
所有権移転登記手続きの他、必要に応じて抵当権抹消手続き、住所変更登記等の手続きが行われます。
所有権移転登記手続きは、売主・買主共に、司法書士の案内に従って手続きを行っていきます。 登記の申請書と委任状に住所・氏名を記入したうえで、押印となります。
登記手続きの後は、売主指定の金融機関への振込伝票、諸費用のための払戻伝票への記入などが行われ、融資が実行され着金が確認できると、諸費用の支払いと共に、売主から買主に売買代金等の領収書や物件資料、鍵一式の授受などが行われます。
残金決済日に必要となるものは以下のとおりです。
<残金決済日に必要なもの>
・実印・認印
・本人確認書類(原本)
・住民票(原本)
・融資元の通帳と届出印
・売買代金・清算金
・賃貸借契約書(原本)
※現住所の住民票で登記をして登録免許税の減税を受ける場合
・区分所有者変更届等
・売買関連の資料一式
残金決済のこの時期、買主は引越に向けて、引越業者との契約、賃貸住宅等の解約手続き(現在の自宅が賃貸の場合)、各種インフラ会社への届出(郵便局への転送届、電気・ガス・水道の各会社への連絡)、自己資金の準備、購入不動産の再確認、管理組合への各種届出(マンションで引渡し後すぐに引越・リフォームをする場合)など、やるべきことが沢山あります。
事前にやるべきことを頭に入れた上で、余裕をもって引越までの動きがとれるようにしましょう。
【コラム:不動産売買に関する書類は大切に保管しましょう!】
売買契約書や重要事項説明書、物件周辺状況等報告書、領収書・見積書など、不動産売買の際に取り交わした書類は、将来的に、売却するとき、相続するとき、リフォームするときなどに必要になりますので、ファイルなどにまとめて、大切に保管するようにしましょう。
例えば売買契約書は、売却する際の譲渡所得税の算出、相続時の不動産評価額をする際に必要になりますし、領収書や見積書は、売却や相続の際の経費として参入することができます。
人任せにしないことが大切
これは、売却、購入双方に言えることですが、不動産売買で失敗しないためには、不動産業者に全てを任せっぱなしにせず、主導権をもって、契約に向けて手続きを進めていくことが大切です。
不動産業界には、多額のお金が動くということもあり、悪徳業者も沢山存在します。
不動産売買でトラブルに巻き込まれた人からの話を聞いていると、やはり、無知につけこまれて騙されてしまっている人が多いように思います。
大きな金額が動く不動産取引では、一つの間違いで大きな被害を被ることになりますので、信頼できる不動産業者と契約をし、ほうれんそう(報告・連絡・相談)をマメに行い、二人三脚で慎重に取引を進めていくのが不動産取引で失敗しないためのコツだと思います。